ピンとコールの言語化ルール
「ピンを鳴らしたのに、誰も気づいてくれない」「味方のコールが多すぎて、何に対応すべきか分からなくなる」。前のSTEPで最小構成の連携を扱ったあと、次に出てくる壁がこの情報共有の問題だ。ピン(pingとも呼ばれる、マップ上に一時的なマーカーを置く機能)やコール(voice callの略で、ボイスチャットやテキストでの情報発信の総称)は、本来チームを支える道具のはずなのに、使い方次第で混乱の原因にもなる。このSTEPでは、情報発信の「言葉を絞る」という設計に踏み込んでいこう。
情報が多いほど、動ける人は減っていく
直感に反するかもしれないが、チームで共有される情報の量と、チーム全体の動きやすさは、一定のところを超えると反比例する。情報が一定量までは動きを助けるが、それを超えると逆に動きを鈍らせる。この現象には心理学的な背景もあるが、ここではゲームの中で起きている実感ベースで話を進めよう。
野良マッチで「ピンが鳴り止まない試合」を思い出してみてほしい。あの試合で、自分は全部のピンに反応できただろうか。おそらく、最初の2〜3個くらいは反応できても、途中からはほぼ無視する状態になっていたはずだ。これは集中力の問題ではなく、人間の処理能力の上限に近いところで起きている自然な現象だ。
情報発信の設計とは、この現象を前提にした上で、「どの情報を発信し、どの情報を発信しないか」を意図的に選ぶことだと考えてみよう。
発信する情報を3つの層に分ける
発信する情報を全部同じ重みで扱うと、受け取る側は優先順位を付けられず、全部を等しく無視するしかなくなる。そこで、情報を3つの層に分けて扱ってみよう。
- 層1 緊急情報 -- 数秒以内に味方の行動を変えてもらう必要がある情報
- 層2 共有情報 -- 今すぐではないが、数十秒〜1分のあいだに味方の判断材料として役立つ情報
- 層3 雑談情報 -- 勝敗には直接関係ない、感情や感想の共有
この3層のうち、ピンやコールで発信したいのは原則として層1だけだ。層2は状況次第。層3は野良マッチでは基本的に発信しない方が味方のためになる場合が多い。この切り分けを自分の中で持つだけで、発信の量は自然に絞られていく。
層1 緊急情報を発信するときのルール
層1の情報は、発信の必要性が高い分、発信の仕方にも配慮が必要になる。次の3つのルールを自分の中に置いておくと、緊急情報が味方に届く確率が上がる。
ルール1 -- 1回の発信に1つの情報だけ
ピンを連打したり、コールで複数の情報を同時に伝えたりすると、受け取る側は優先順位を付けられずに固まる。1回の発信には1つの情報だけを乗せる、という原則を守ると、発信の意図が明確に伝わる。2つ目の情報を伝えたい場合は、1つ目に反応があったことを確認してから発信する方が結果的に早い。
ルール2 -- 場所か行動のどちらかを明示する
緊急情報には「どこで」と「何が起きているか」の2つの要素があるが、同時に両方を伝えようとすると情報量が増えすぎる。野良マッチでは、場所か行動のどちらかを明示し、もう一方は味方の推測に任せる割り切りが機能する場合が多い。
たとえば「ここにいる」というピンだけなら、場所だけが明示されていて、行動(攻めているのか、逃げているのか)は相手が推測する。これだけでも、味方は「何か起きているから注目しなきゃ」という意識を持てる。
ルール3 -- 発信の頻度を試合中に一定に保つ
緊急情報を頻繁に発信しすぎると、緊急の重みが薄れていく。逆に、試合の前半は何も発信せず、終盤だけ急に多発させても、受け取る側は戸惑ってしまう。試合全体を通して、発信の頻度をおおよそ一定に保つ意識があると、情報の重みが安定する。
目安としては、1試合あたり3〜5回程度の緊急情報発信が、野良マッチでは噛み合いやすい。ゲームや状況によって適正値は変わるが、「10回を超えたら多すぎる」「0回なら少なすぎる」くらいの幅で考えると調整しやすい。
コールの言葉を「動詞」に絞る
コールで発信する場合、もう一段具体的なルールが使える。それは、コールの言葉を「動詞」に絞ることだ。名詞や形容詞だけで構成されたコールは、情報として伝わりにくい傾向がある。
- 伝わりにくいコール例 -- 「こっち」「やばい」「多い」
- 伝わりやすいコール例 -- 「下がる」「進む」「待って」「援護お願い」
動詞が入っていると、受け取る側は即座に行動に翻訳できる。名詞や形容詞だけだと、翻訳の工程が1つ増えるため、反応が遅れる。野良マッチでは、この1工程の差が致命的になる場合が多い。
自分のコールを「相手目線」で点検する
自分のコールが相手に伝わっているかどうかを点検する方法として、「相手目線でそのコールを聞いたら何秒で動けるか」を想像するという方法がある。1秒で動けるコールなら質は高い。3秒以上かかるコールなら、情報を削るか動詞に置き換える余地がある。
この点検を試合中にやるのは難しいが、試合後に振り返るだけでも効果がある。「あのコール、受け取った味方は何秒かかって動けただろう」と想像する習慣を作ると、次の試合でのコールの言葉が自然と変わってくる。
情報を受け取る側の心構え
発信だけでなく、受け取る側の心構えも少し触れておきたい。情報の受信側でありがちなのは、「味方のコールやピンに全部反応しなければ」と思い詰めることだ。
実際には、味方の発信のうち、自分が反応する必要があるのはごく一部だ。層1の緊急情報には反応する必要があるが、層2・層3は反応しなくても試合は進む。全部に反応しようとすると、自分の動きがぶれてしまい、かえってチームの邪魔になる場合もある。
受け取る側の判断として、「これは自分が反応する情報か、別の味方が反応する情報か」を一瞬で見分ける練習をしておくと、チーム全体の動きが整いやすくなる。
チェック -- 直近の試合で自分の発信はどの層だったか
次の問いに、記憶から答えを探してみよう。
- 直近の試合で、自分が発信したピン・コールの回数を思い出せるだろうか
- そのうち、層1の緊急情報は何件くらいだっただろうか
- 層2・層3にあたる発信が混ざっていなかっただろうか
- 発信した情報のうち、味方が実際に反応してくれた割合はどのくらいだろうか
問いに全部答えられなくても、意識して観察することが次の試合の材料になる。
このSTEPのまとめ -- 発信は「絞る」が基本
情報共有は、発信の量を増やすことよりも、発信の精度を上げることの方が難しい。量を増やすのは簡単だが、絞るのには自制が要る。野良マッチで連携が機能しているチームほど、実は発信の量が少なく、絞られている場合が多い。
次の試合では、自分のピンやコールを発信する前に「これは層1か、それとも層2以下か」と1回だけ自問してみよう。その一瞬の自問が、試合全体の情報の質を変えていくはずだ。
ゲームの「うまくなり方」を体系化するNEXTGG編集チーム。ジャンル別プレイヤーと共に、検証と実プレイを重ねた上達メソッドを届けている。