APMと有効操作のちがい -- 量ではなく意味で見直す
「APMは上がってきているのに、勝率は横ばい」マイクロの練習を数十戦続けた頃に、このねじれに気づく人がいる。操作回数という数字は伸びているのに、実際の勝負では頭打ちの感覚が消えない。このSTEPでは、APM(1分あたりの操作回数。ゲームが自動で記録してくれる指標のひとつ)という数字の正体と、その裏側にある「有効操作」という視点の話に踏み込んでいこう。
APMはそもそも何を測っている数字か
APMは操作回数の合計をプレイ時間で割った数字だ。計算としてはシンプルで、マウスクリックとキー入力の全部が一律にカウントされる。つまり、意味のある操作も意味のない操作も、同じ1回としてカウントされている。
ここに最初のねじれがある。APMが高いプレイヤーは操作が速い、ということは事実として真だけれど、操作が速いから強いかというと、それは必ずしも一致しない。100APMでも勝つ人はいるし、300APMでも負ける人がいる。この散らばりの正体を辿っていくと、操作の「質」の話にたどり着く。
プロのAPMを分解すると見えるもの
プロプレイヤーのリプレイを解析すると、APMの総数の中にはかなりの割合で「ホットキーの連打」や「視点移動の反復」が含まれている。APMの全部が有効操作ではない、という事実は、プロも中級者も変わらない。違うのは有効操作の「割合」のほうで、率が高いプレイヤーは同じAPMでも実質的な仕事量が多い。ここが、数字の大小だけでは見えない差の正体になってくる。
有効操作という言葉の定義
有効操作(意味のある結果につながっている操作全般)という言葉は、競技RTSの界隈で使われる概念で、厳密な定義は文脈によって揺れる。この記事の中では、ひとまず「盤面に実際の影響を与えている操作」として扱っておこう。
影響を与えるとはどういうことか。生産指示、建築指示、ユニットへの移動命令、攻撃指示、ホットキーの初回登録、これらは全部盤面に影響がある。一方で、すでに指示した場所をもう一度右クリックする反復、無意味な視点移動、キャンセルの繰り返しは、盤面には影響しない。後者が多いと、APMは伸びるけれど有効操作率は下がる。
有効操作率を自分で測る目安
リプレイを細かく数える必要はない。ざっくりした目安として、次の3つを自分で振り返ってみよう。
- 同じ場所を2回以上クリックしていないか -- 1回で済む操作を反復していないか
- 視点移動の後に何もしていないか -- 画面を動かしただけで指示が出ていない場面が多くないか
- キャンセル→再入力の回数 -- 判断が揺れて入力し直しているパターンが続いていないか
この3つに心当たりがある試合は、APMの数字とは別に、有効操作率が低めに出ている可能性がある。数字を見るより、自分の操作のパターンを1試合だけ丁寧に観察してみると、改善の糸口が見つかりやすい。
有効操作率を上げる発想 -- 操作を減らす
ここが逆説的な部分なのだけれど、有効操作率を上げるには、操作を増やすのではなく減らす方向のアプローチが効く場面が多い。無駄な操作を減らせば、相対的に有効操作の割合は上がる。APMが200から180に落ちても、有効操作率が60%から75%に上がっていれば、実質的な仕事量は増えている計算になる。
操作を減らすための具体的な工夫をいくつか並べてみよう。
- ホットキーの整理 -- 使わないキーを覚えるより、使うキーを少なく深く使う
- コントロールグループの固定化 -- ユニットの番号割り当てを毎回同じにする
- 視点移動の目的化 -- 画面を動かす時は「何を確認するか」を先に決める
- 生産の自動化意識 -- 生産キューの確認を一定間隔で入れて、漏れを減らす
これらは速度を上げる工夫ではなく、迷いを減らす工夫だ。迷いが減れば、同じ時間で盤面に与える影響は増えていく。
APMの「テンポ感」のほうが大事
もう一歩踏み込むと、APMの平均値よりも、APMの「波」のほうが上達の指標として機能する場面がある。交戦中はAPMが上がって、平時は落ち着く。この波があるプレイヤーは、必要な瞬間に必要な操作を集中できている。逆に、常に一定のAPMで操作しているプレイヤーは、平時に無駄な操作を入れて数字を埋めていることが多い。
自分のリプレイを見返す時、APMのグラフが一定なのか波打っているのかを観察してみると、自分の操作の癖が分かる。一定の場合は、平時に操作を落とす練習が効く。波打っている場合は、その波の高さを保ちながら質を上げていく方向が効く。
競技志向とカジュアル志向の距離感
APMや有効操作の話は、どうしても競技的な方向に振れやすい。カジュアルにRTSを楽しんでいる人にとっては、有効操作率が低くてもそれが問題になるわけではない。「自分が今の段階で何を伸ばしたいか」を自分の言葉で持っておけばいい。
自己診断 -- 有効操作という視点が自分に馴染んだか
- APMの正体 -- 数字は操作の量であって質ではないことを理解したか
- 自分の癖 -- 反復・空振り・キャンセルの頻度を振り返ったか
- 操作を減らす -- 無駄を減らす方向で有効率を上げる発想が入ったか
- 波の意識 -- 平時と交戦でAPMの高さを分ける感覚があるか
- 自分の目的 -- 競技志向か楽しさ志向か、自分の立ち位置が見えているか
3つに手がかかっていれば、操作の質に目が向き始めている。
最初の一歩 -- リプレイを1試合だけ、操作の目で見返す
次の試合が終わったら、その試合のリプレイを1つだけ見返してみよう。勝敗や戦術ではなく、自分の操作に目を向ける。「同じ場所を2回クリックしていないか」「視点を動かしただけの瞬間がないか」を探すだけでいい。1つでも2つでも、減らせる操作が見つかればそれは前進だ。
このSTEPのまとめ
- APMの正体 -- 量を測る数字で、質は測っていない
- 有効操作 -- 盤面に影響を与えている操作の割合こそが本質
- 操作を減らす -- 質を上げる近道は量を絞ること
- APMの波 -- 平均値より、必要な瞬間の集中が効く
- 自分の目的 -- 競技か楽しさか、自分の立ち位置を先に決める
APMの数字が上がっても勝率が追いつかないのは、量と質がすれ違っていたからだ。減らすことで質が上がる。波を作ることで密度が上がる。逆説的だけれど、操作を削るという地味な工夫が、マイクロの中盤以降の伸びしろを静かに広げていく。
ゲームの「うまくなり方」を体系化するNEXTGG編集チーム。ジャンル別プレイヤーと共に、検証と実プレイを重ねた上達メソッドを届けている。