コンパウンド選びとピット戦略 -- 損益計算としてのタイヤ交換
長距離レースのレギュレーション画面を見ると、だいたい複数のコンパウンドから選べるようになっている。ソフト、ミディアム、ハード。ゲームによってはスーパーソフトやインター(雨と乾いた路面の中間用)まで並んでいる。選択肢が多いと選びたくなる気持ちと、選べないまま毎回同じを選ぶ気持ちは、だいたい同時にやってくる。STEP3では、コンパウンド選びを感覚の問題から「損益計算」として扱い直す視点を入れていく。ピット戦略もここと地続きになる話だ。
コンパウンドごとの「速さ」と「寿命」のトレードオフ
コンパウンドの違いを一言で言うと、「速さと寿命のトレードオフ」だ。ソフトは速いが短命、ハードは遅いが長寿命、ミディアムはその中間にいる。どれを選んでも、同時に全部の良さを手に入れることはできない。
- ソフト: ラップタイムが速い。1周あたり0.5秒〜1秒以上の差が出ることもある。代わりに寿命が短く、10〜15周程度でタイム低下が目立ち始める
- ミディアム: 速さと寿命のバランス型。20〜30周は安定して走れるが、ソフトに比べると1周あたり0.3〜0.6秒遅い
- ハード: 寿命が長く、40周以上走っても大崩れしない。代わりにラップタイムは一番遅く、ソフトと比べて1周あたり0.8〜1.5秒遅いことが多い
ここで大事なのは、この数字たちは車やコース、温度、ドライバーの走り方によって全部変動する、ということだ。ゲーム内の説明で「このコンパウンドは〇〇周もつ」と書かれていたとしても、自分の走り方次第でその寿命は前後する。一度は自分のデータで確かめる作業が要る。
ピットストップを「時間ロス」じゃなく「投資」として見る
コンパウンド選びと切り離せないのが、ピットストップ戦略だ。ピットに入るとレースの流れから数十秒離脱する。この時間ロスを「もったいない」と感じてピット回数を減らしたくなる人は多い。けれど長距離レースでは、この「ロス」を単独で見るのは粗い見方になる。
ピットに入ることで、以下が得られる。
- 新品のタイヤによるグリップ復活
- グリップ復活によるラップタイムの改善
- タイヤ劣化による事故リスクの低減
失うのは時間ロスだけで、得られるのはこの3つ。ピットに入るかどうかの判断は、この天秤でやる。ピット1回に20秒かかるとして、残り20周あるなら、1周あたり1秒速くなれば元が取れる計算になる。ソフトタイヤに履き替えて残り周回を走り切れるなら、タイヤ劣化で遅くなった今のハードタイヤよりずっと速く走れる。この損益計算を、頭の中で素早くできるようになると、ピット戦略の判断が急にクリアになる。
1ストップと2ストップの分かれ道
「1回ピットに入るか、2回入るか」。長距離レースで最もよくある戦略の分かれ道がここにある。答えはコースと車の組み合わせで変わるけど、考え方のフレームは共通している。
- ハードタイヤが中盤以降に崩れにくいコース: 1ストップ有利。ハード→ミディアム、ミディアム→ハードで走り切る
- タイヤ摩耗が激しく、終盤に明確にタイムが落ちるコース: 2ストップ有利。ソフト→ソフト→ミディアム、みたいにタイムを稼ぎに行く
- ピットレーンが長くて1回のロスが大きいコース: 1ストップに寄せたい
- ピットレーンが短くロスが小さいコース: 2ストップで攻めやすい
走り始める前にコースと車のデータを見て、「今日は1ストップで行く」を決めておくと、レース中の判断負荷が減る。決めずに走ると、中盤でタイヤの減り具合を見てから慌てて決めることになり、結果的にベストじゃない選択になりがちだ。
戦略は「プランAとプランB」を持って走る
とはいえ、決めた戦略がそのまま通用するとは限らない。レース中に雨が降ったり、接触が起きたり、セーフティカーが出たり、予想外の事象は常に起きる。だから戦略は1本じゃなく、プランAとプランBを持って走るのが現実的だ。
- プランA: 天候安定・クリーンなレース展開ならこの戦略で走り切る
- プランB: 雨が降ったら、あるいはセーフティカーが出たら切り替える戦略
プランAだけで走っている人は、予想外の事態で選択肢を失って後手に回る。プランBを頭に置いている人は、同じ事態を「切り替えのチャンス」に変えられる。ピット戦略は走る前の計画8割、走りながらの対応2割、くらいの配分で組んでおくといい。
自分のデータを貯めていく
ここまで一般論で書いてきたけれど、最後に大事なことを1つ。損益計算の精度を上げるのは、結局のところ自分のデータだ。自分の走り方で、このコースでソフトが何周もつのか。ハードでペースを落とさずに走れるのは何周までか。1ピットのタイムロスは何秒か。これらは人や環境によって違うから、他人の数字では代用できない。
コースを変えるたびに、予選後の試走やフリー走行で1セッションぶんだけタイヤの寿命を確認する時間を取ってみる。ソフトで10周、ミディアムで10周、ハードで10周。それぞれのタイム推移をログに残しておく。この地味な作業が、本番のピット戦略の精度をぐっと上げてくれる。
タイヤ選びとピット戦略は、勘じゃなく計算で決める領域だ。そして計算に必要な材料は、自分で積み上げるしかない。
ライバルとの距離感が、戦略を変える
もう1つだけ実戦的な話を加えておきたい。戦略は自分の車単独で決まるものじゃなく、周囲のライバルとの距離感によっても変わってくる。直前を走るライバルが1ストップ戦略で、自分が2ストップ戦略を組んでいるとしたら、2回目のピットで順位を大きく失う可能性がある。逆にライバルが2ストップで、自分が1ストップなら、中盤の何周かで順位を稼げるチャンスがある。
ピット戦略を組むときは、自分の車のラップタイムと燃費やタイヤ寿命だけじゃなく、ライバルの戦略を推定する視点もセットで持っておくと、レース中の判断に厚みが出る。上位帯のレースで「タイヤマネジメントの名手」と呼ばれる人たちは、自分の管理だけじゃなく、他車のタイヤ状況まで読んでいる場合が多い。
セーフティカーとアンダーカット
ピット戦略の話をする上で、避けて通れない要素が2つある。セーフティカーとアンダーカットだ。セーフティカーが出るとレース全体のペースが落ちるので、その間にピットに入れば時間ロスがほぼ帳消しになる。だからセーフティカー宣言が出た瞬間にピットへ入れるかどうかが、順位を大きく動かすことがある。セーフティカー対応は、事前に「もし今セーフティカーが出たら入る」という想定を持っておくかどうかで反応速度が変わる。
アンダーカットは、ライバルより先にピットに入って、新品タイヤの速さで戻ったあと、ライバルの古いタイヤのペースを上回って追い抜く戦術だ。同じ順位のライバルを相手に、数周ぶんのタイム差で逆転を狙う場面で使える。どちらも上位戦略の引き出しとして、言葉だけでも知っておくと、ピット戦略の解像度がもう一段上がる。
「タイヤを変えない」ストイックさ
タイヤ交換のタイミングは、前に進めるか・後に引くかの二択じゃない。実は「交換しない」という選択肢もある。レギュレーション(ルール)によっては、タイヤ無交換でレースを走り切ることが許される場合がある。ピットロス20秒を完全にゼロにできる代わりに、終盤はペースがガクンと落ちる。このトレードオフが、コース条件によっては有効になる。
無交換戦略を選ぶなら、序盤からタイヤを守る走り方に徹する必要がある。ベストラップを出しにいかず、タイヤの摩耗を最小限に抑えるラインと操作を選び続ける。1周あたり0.3秒ほど遅いタイムで10周走っても、ピットに入らないことで稼いだ20秒分が残っていれば、総合では前に出ていることになる。こうした長期のタイム計算ができるようになると、タイヤ戦略の世界がまた一段広がっていく。
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