読み合いの層は「3手先」で十分 -- 深追いが決断を遅らせる
「相手の予想は立てられるようになったけれど、さらにその先の相手の予想を読もうとすると頭がこんがらがる」先読みの練習を深めた人が、次に迷い込む迷路がこれだ。読みの層を深くすればするほど強くなる気がして、どんどん深追いしていった結果、決断が遅れて試合が崩れる。このSTEPでは、読み合いの層の適切な深さの話に降りていこう。
深読みの誘惑
先読みが面白くなってくると、「もっと深く読みたい」という気持ちが芽生える。相手が攻めてくると予想したら、さらにその先の「攻めが失敗した後に相手は何をしてくるか」まで読みたくなる。この欲望自体は自然なものだ。チェスやポーカーの名人は、何手先まで読むという伝説的なエピソードを持っていて、深読みは強さの象徴のように語られる場面もある。
でも実戦の中で深読みを続けようとすると、頭の中の処理が一気に重くなる。2手先を読むのに2倍の労力、3手先に3倍、4手先に4倍かかるなら話は簡単だけれど、実際には指数関数的に複雑さが増していく。相手の選択肢が分岐するからだ。
指数関数的に増える読みの複雑さ
相手が次の一手で3つの選択肢を持っているとしよう。1手先を読むなら3通り。2手先を読むなら、自分の反応3通り×相手の次の選択肢3通りで9通り。3手先なら27通り、4手先なら81通り、5手先なら243通り。この数は毎回ぴったり3倍になるわけではないけれど、層を深めるごとに爆発的に増えていく構造は変わらない。
人間の頭は、実戦の1秒未満の判断で数百通りを同時に比較することはできない。将棋やチェスの名人でも、実際に読んでいる手数は伝説ほど多くはなく、その代わり「読まなくていい手を切り捨てる」感覚が鋭い、という話が知られている。
3手先で十分、という提案
ここで提案したいのは、「読み合いの層は3手先で十分」という割り切りだ。3手先というのは、「自分の動き→相手の動き→自分の動き」という3つの動作の連なりを想定する範囲を指す。これ以上深くしない、と決めてしまう。
なぜ3手かというと、3手先までは手の流れに物語が立ち上がるからだ。「自分がこれをすれば、相手はこう反応するはず。だから自分は次にこれをする」という流れは、言葉にしても自然だし、頭の中でも追いやすい。4手先以上になると、この物語性が崩れて、抽象的な分岐の計算になってしまう。
チェスとポーカーから借りる切り捨ての発想
チェスの序盤には定石(オープニング。開始から10手前後の定番の進行)が存在する。プロのチェスプレイヤーは、最初の10手ぶんはほぼ考えずに指す。「読まなくていい手」を増やすほうが、「深く読む部分を作る」より強くなる、という発想だ。自分のビルドの序盤を定石として固めておいて、中盤以降で先読みに頭のリソースを使う。
ポーカーにも近い考え方がある。トッププレイヤーは相手の手を完璧に読もうとはせず、「自分のハンドがこの範囲で十分に強いか」という十分条件だけを確認して決断する。正解を探すのではなく、十分な決断を素早く下す。RTSの読み合いでも、3手先の仮説が立っていて、そのどれが来ても対応できる準備があれば、それ以上深く読む必要はない。
3手先を超えないための練習
3手先で切り上げる感覚を体に入れるには、意識的に「ここでやめる」という線引きが必要になる。試合中に先読みをし始めて、3手先まで来たら意識的に手を動かす。4手目は考えない、と決めておく。
これは自制の練習に近い。深く読みたい欲望を、意図的に止める。最初は物足りなく感じるかもしれない。でも決断のスピードが上がる体感が来ると、3手で止めることのメリットが見えてくる。深く読んで遅れるより、浅く読んで速く動くほうが実戦では効く場面が多い。
3手読みと運の関係
3手で切り上げると、4手目以降で起きることは予想できない。つまり、試合の結果には常に「予想外」という運の要素が含まれる。これを嫌がる人もいるけれど、むしろこの運を受け入れることで決断が楽になる場合が多い。
「4手目以降は運の領域」と割り切ると、3手までの自分の判断を疑わなくて済む。正しい3手読みの後に負けたとしたら、それは運の問題であって判断の問題ではない。この割り切りは、試合後の振り返りを楽にし、上達のペースを落とさない効果を持つ。
深読みが必要な場面もある
ここまで3手で十分と書いてきたけれど、例外もある。長期戦の終盤や、試合の勝敗が1手で決まる場面では、4手以上の読みが必要になることがある。ただしこれは上級者の領域で、普段の試合では3手で十分という前提で動くのが現実的だ。
深読みが必要な場面に出会った時は、時間をかけてでも深く読む。それ以外の場面では3手で切り上げる。この切り分けが、読み合いの上達の次の段階になる。
自己診断 -- 3手の線引きが入ったか
- 指数関数の理解 -- 深読みが複雑さを爆発させる構造を理解したか
- 3手の範囲 -- 自分→相手→自分の流れで止める発想があるか
- 十分条件の発想 -- 完璧ではなく十分で決断する練習ができているか
- 運の受容 -- 4手目以降を運として割り切れるか
- 例外の認識 -- 深読みが必要な場面もあることを理解しているか
3つに手がかかっていれば、読み合いの深さの調整は自分のものになり始めている。
最初の一歩 -- 次の1戦、読みを3手で止める
次の1戦で、先読みを始めた時に「3手目で止める」というルールを自分に課してみよう。4手目が頭に浮かんでも、意識的に切り捨てる。決断を早めることだけに集中する。試合後に、3手で止めることで決断が早くなったかを1行で振り返る。
このSTEPのまとめ
- 深読みの誘惑 -- 強さの象徴のように感じてしまう
- 指数関数 -- 層を深めるごとに複雑さが爆発する
- 3手で十分 -- 物語性を保ちつつ処理可能な範囲
- 定石の発想 -- 読まなくていい部分を増やすほうが強い
- 十分条件 -- 完璧を目指さず、十分で決断する
深読みの迷路に出口はない。層を1つ重ねるたびに分岐は指数関数で増え、頭は追いつかなくなる。だから出口ではなく線引きを持ち込む。3手先。自分→相手→自分。物語として追える範囲で止めて、手を動かすほうを選ぶ。浅く速く、が深く遅くを上回る場面は、思っているよりずっと多い。
ゲームの「うまくなり方」を体系化するNEXTGG編集チーム。ジャンル別プレイヤーと共に、検証と実プレイを重ねた上達メソッドを届けている。