対応力は「柔軟さ」ではなく「構造」 -- 引き出しの多さという視点
「対応力ってセンスの話じゃないの?」adaptシリーズをここまで読んできた人の中には、そんな疑問を抱く人もいるかもしれない。対応という言葉には、どうしてもセンスや柔軟さといった感覚的なニュアンスがつきまとう。最終STEPでは、その見方を少し引っくり返して、対応力を「構造」という別の言葉で捉え直してみたい。
柔軟さという言葉の誤解
対応力は柔軟さだ、という説明はよく聞く。柔軟に動ける人が対応力が高い、と言われると、確かに感覚としては合っているように思える。でもこの言葉には罠がある。柔軟さは、まるで才能のような響きを持っていて、「持っている人」と「持っていない人」を分けてしまう。
実際の上級者を観察すると、彼らの対応力は柔軟さというよりも、使える選択肢の多さから生まれている場面が多い。同じ状況で5つの選択肢を持っている人と、2つしか持っていない人では、前者のほうが柔軟に見えるだけで、実際は選択肢の多寡の違いでしかない、という構造だ。
構造とは「使える引き出しの総量」
ここでいう構造というのは、「自分が使える動きの選択肢の集合」のことを指している。引き出しという言葉のほうが伝わりやすいかもしれない。経済を伸ばす引き出し、軍を出す引き出し、拡張を取る引き出し、奇襲を仕掛ける引き出し、守りを固める引き出し。使える引き出しが多いほど、状況に応じた選択ができる。
引き出しは練習で増やせる。センスとは違って、積み重ねで増えていく種類のものだ。1つのビルドを極める過程で1つの引き出しが埋まり、別のビルドを試すとまた1つ増える。対応力を構造として捉え直すと、「練習すればするほど対応力は上がる」という希望のある見方に変わる。
引き出しを増やす練習 -- 縦軸と横軸
引き出しを増やす練習には、縦軸と横軸の2方向がある。縦軸は同じビルドの深掘り、横軸は別のビルドの追加だ。
- 縦軸 -- 既に使っているビルドの細部を詰めて、引き出しを深くする
- 横軸 -- 全く違うビルドを試して、引き出しの種類を増やす
縦軸だけを続けると、深いけれど狭い対応力になる。横軸だけを続けると、広いけれど浅い対応力になる。両方を交互に回すのが、バランスの取れた引き出しの育て方になる。どちらか一方に偏りがちな人は、もう一方を意識的に取り入れてみるといい。
引き出しの「呼び出し速度」
引き出しの数が増えてくると、次の課題は「必要な引き出しを素早く取り出せるか」になる。引き出しが100個あっても、どこにあるか分からなくて探しているうちに試合が終わってしまっては意味がない。
呼び出し速度を上げるには、引き出しに「タグ」をつけておく発想が効く。攻め型の相手に対する引き出し、守り型に対する引き出し、奇襲への対応の引き出し、という具合に、状況別に分類しておく。状況が発生した瞬間に、そのタグの引き出しだけを候補として呼び出せる。
使わない引き出しも持っておく
一見無駄に見えるけれど、実戦で使わない引き出しも持っておくと対応力に効く場面がある。使わない引き出しを持っていることで、「相手がそれを使ってきた時に理解できる」ようになるからだ。
たとえば自分は攻め型を使わないプレイヤーでも、攻め型の仕組みを知っていれば、相手が攻めてきた時にその意図を素早く読める。使わないからといって知らないままでいると、相手の動きが未知の領域になって対応が遅れる。引き出しは自分で使うためだけでなく、相手を理解するためにも持っておく価値がある。
引き出しと時間の関係
引き出しを増やすには時間がかかる。1つのビルドを定着させるのに数十戦は必要で、馴染まない間は勝率が一時的に下がることもある。短期の勝率を犠牲にして長期の引き出しを増やす、というトレードを受け入れられるかどうかで、半年後の対応力に差が出てくる。
整理と個性
引き出しは増やすだけでは整理がつかなくなる。ある時期から、今の戦い方に合わない引き出しを意識的に外す作業も必要だ。残った組み合わせが、そのままプレイヤーの個性になる。攻撃寄り、防御寄り、奇襲寄り。どれも正解で、どれも個性だ。
自己診断 -- 構造という視点を受け取れたか
- 柔軟さからの脱却 -- 対応力をセンスではなく構造として見られるか
- 引き出しの発想 -- 使える選択肢の集合として対応力を捉えているか
- 縦軸と横軸 -- 深掘りと拡張の両方を回そうとしているか
- 使わない引き出し -- 相手理解のために持つ引き出しも意識しているか
- 時間の覚悟 -- 短期の勝率を犠牲にする覚悟があるか
全部に手が届かなくて当然だ。この視点は、何十戦、何百戦を重ねる中でじわじわと体に染み込んでくる類のものだ。
シリーズを振り返って
adaptシリーズのSTEP5まで歩いてきた流れを振り返ろう。
- STEP1 -- 固定ビルドをあえて崩す練習から入る
- STEP2 -- 相手を3種類に分類して対応の骨格を作る
- STEP3 -- 対応と後手の違い、先読みの発想を入れる
- STEP4 -- 読み合いの層は3手先で切り上げる
- STEP5 -- 対応力を引き出しという構造として捉え直す
全体を通して扱ってきたのは、対応力という言葉の裏側にある構造の話だった。対応力はセンスではなく、積み重ねで育つ構造だ。この視点を持っているかどうかが、長期の上達のペースを決める場面が多い。
最初の一歩 -- 次の1戦、新しい引き出しを1つ試す
次の1戦で、普段使っていない動きを1つだけ試してみよう。新しいビルドでも、新しい奇襲でも、新しい守りでもいい。1つだけ、新しい引き出しを作るつもりで動く。うまくいかなくて当然だ。試合後に、その引き出しをどう育てていきたいかを1行だけメモする。
1戦が1つの引き出しになるわけではない。でも1戦が、将来の引き出しの最初の一歩になることは確かだ。対応力は長期戦で、焦らずに育てていこう。
rts4シリーズ(clock・scout・micro・macro・adapt)を通して歩いてきた時間が、画面の先の自分の判断に少しでも影響を残していたら、このシリーズの目的の半分以上は達成できている。残りの半分は、実戦の中で自分の手で積み上げていく領域だ。長く遊べるジャンルだからこそ、長い目で付き合っていこう。
ゲームの「うまくなり方」を体系化するNEXTGG編集チーム。ジャンル別プレイヤーと共に、検証と実プレイを重ねた上達メソッドを届けている。