「読める」ではなく「読まれる側を楽しむ」 -- 対人戦の景色をもう一段広げる
「読み合いを続けていると、いつか疲れてしまう瞬間が来る」。観察を鍛えて癖を隠して裏をかく練習をして、原理まで降りてきた先に、意外と多くの人が当たるのがこの壁だ。読み合いという営みを勝ち負けの道具としてだけ扱っていると、しんどくなる時間がやってくる。このSTEPでは、シリーズの締めくくりとして、読み合いを少し違う角度から眺めてみる時間を取りたい。
読む側と読まれる側は、同じ椅子に座っている
対人戦の読み合いは、自分が読む側で相手が読まれる側、という一方的な構図に見えがちだ。けれど実際は、どちらのプレイヤーも同時に読む側でもあり、読まれる側でもある。あの試合で自分が読み勝ったと感じた瞬間の裏側では、相手もまた読み合いの挑戦をしていたはずだ。
この前提を受け入れると、読み合いは対戦ではなく共同作業に近いものとして見えてくる。お互いに情報を出し合い、引き出し合い、少しずつ景色を作っていく作業。そこに勝ち負けは確かにあるけれど、それが全部ではないという感覚だ。
「読まれる」ことの楽しさ
上位帯のプレイヤーと話していると、時折出てくるのが「読まれる側になるのも面白い」という感覚だ。最初は不思議に聞こえるかもしれない。読まれたら負けなのに、なぜ楽しめるのか。
答えのひとつは、読まれたという事実そのものが、相手が自分の動きを観察してくれた結果だからだ。自分のプレイが相手の頭の中でひとつの像を結んだから、読まれる状態が成立している。その像を次の試合でどう動かすか、どうやり直すかを考える時間は、読み合いの醍醐味そのものだったりする。
この感覚にたどり着くと、負けた試合のあとの気持ちが少し変わってくる。負けは情報であり、次の準備の材料だ。勝ち負けで一喜一憂する前の段階に、もうひとつ深い楽しみ方の層があることに気づける。
ポーカー・チェス・将棋に通じる3つの視点
読み合いの景色を広げる助けとして、他ジャンルの対人競技を覗くのもおすすめしておきたい。スポーツゲームの読み合いと構造が近い競技は、実はいくつもある。
- ポーカー -- 相手の手札を完全には見られない不完全情報ゲームの代表。強いプレイヤーほど、自分が読まれることを前提に「どう読まれたいか」まで含めて振る舞いを設計していると言われる。読まれる側の自分をデザインするという発想が、ここに近い
- チェス -- 盤面の情報は全部見えているのに、相手の思考の流派まで含めると未知が多い完全情報ゲーム。トッププレイヤーは「相手が自分の駒をどう読むか」を何手も先読みする。読む側と読まれる側が同じ椅子に座る感覚は、この競技の内側で最も純粋な形になる
- 将棋 -- 長手数で読み合いが続くこともあって、同じ局面を何度も似た形で迎える。その繰り返しのなかで、プロ棋士ほど「読まれる経験の蓄積」そのものを次局の材料にしている
どの競技にも共通しているのは、読み合いを勝ち負けの道具としてだけ扱うのではなく、相手との共同作業として捉え直している点だ。スポーツゲームの読み合いも、この系譜の上に乗せてみると少し違う角度から眺められる。自分が今やっているのは、世界中の対人競技が何百年もかけて磨いてきた「情報を出し合う遊び」の一種だ、と考えておくと、1試合の重さが少しだけ軽くなる。
シリーズの5STEPをひとつの景色に
ここまでの5STEPを振り返ってみると、序盤の観察から始まって、自分の癖を知り、裏をかく動きを覚え、原理に降りて、最後に読まれる側まで含めた景色にたどり着いた。一段ずつ上っていくつもりで書いてきたけれど、実はどのSTEPも同じひとつの円の上に乗っていて、どこから入ってもいい。
読み合いの上達は直線ではなく、円の上をゆっくり回り続けるような動きに近い。今日の自分が観察に手応えを感じているなら観察を深め、癖隠しに詰まっているならそこに戻る。円のどこにいても、またどこかにつながる。その柔らかさが、対人戦という長い遊びを続けるための支えになる。
冒頭の「疲れる瞬間」に、戻ってくる
このSTEPの冒頭で、「読み合いを続けているといつか疲れてしまう瞬間が来る」という話をした。ここまで景色を広げてきた今、その疲れの正体にもう一度戻ってみたい。たぶんあの疲れは、読み合いを勝ち負けの道具としてだけ回し続けていたことから来ている。道具として使い続けると、どんな道具でもすり減るし、使う側も消耗する。
道具ではなく共同作業として読み合いを眺め直せたとき、疲れの質が変わってくる。勝った試合も負けた試合も、相手と一緒に作った1つの景色として手元に残るようになる。次の1試合で意識したいのは、勝ち負けの線を少しだけ細くして、観察・癖・裏・原理のどれかひとつに意識を置いてみること。それだけで十分に前進しているし、シリーズの最初に感じた「読み合いってなんだろう」という問いへの、自分なりの答えの輪郭が少しずつ見えてくるはずだ。
ゲームの「うまくなり方」を体系化するNEXTGG編集チーム。ジャンル別プレイヤーと共に、検証と実プレイを重ねた上達メソッドを届けている。